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医者いらず健康長寿処方箋①

医学博士 井上正康


井上正康先生は、癌や生活習慣病を「活性酸素」やエネルギー代謝の観点と、地球や生命の歴史という大きな視野で研究されている国際的研究者です。 専門書、一般書のご執筆をはじめ、マスメディアでも大活躍、「予防医療」の研究と普及に取り組まれています。 今回から「医者いらず健康長寿処方箋」と題して連載をはじめます。

「コレステロール恐怖症考」

 第二次世界大戦に惨敗した日本人は、持ち前の勤勉さと「和を以て尊し」となす精神構造とで驚異的に復興して世界を驚かせた。終戦直後には国民病であった結核、寄生虫疾患、脳卒中死亡率などが激減し、日本人は世界最長寿民族となった。しかし、人生はトレードオフであり、長寿と引き換えに花粉症などのアレルギー疾患に悩まされ、様々な生活習慣病を恐れる時代が到来した。
 動脈硬化や心臓病が恐れられている欧米では、その元凶と誤解されたコレステロールが目の敵にされてきた。この風評が日本にも伝搬して多くの学者やメディアにより過大宣伝され、お茶の間の隅々まで「コレステロール恐怖症」が蔓延することになった。これを追い風に、巷では「コレステロールを下げれば健康になれる」との盲信が一人歩きし、コレステロールを低下させるアノ手コノ手の誇大宣伝が垂れ流されている。
 元祖コレステロール合成阻害薬のメバロチンは日本人研究者が開発した妙薬である。しかし、これが日本に逆輸入された時点で、血中コレステロール値220 mg以上で投与される診療基準が作成された。循環器疾患が遙かに多い米国の医療関係者は、日本の厳しすぎる投与基準に大変驚いた。事実、医者にかかると「コレステロールが少し高めなので、下げるお薬を出しておきましょうか?」と云われ、多くの受診者が不必要なスタチン類を処方されている。
 しかし、最近の研究では、LDLコレステロール値の高い方が冠動脈疾患を除く全疾患の死亡率が低いことが判り、安易なスタチン投与を反省すべき時代になった。実は、コレステロールの40%近くは脳や細胞膜に局在し、神経細胞や血管壁を安定化しており、この保護作用のお陰で大きな脳が進化してきたのである。残りのコレステロールは胆汁酸として消化吸収に関与すると同時に、コルチゾール、エストロゲン、テストステロンなどとして生命維持に不可欠な役割を担っている。
 食物由来のコレステロールと異なり、体内のコレステロール合成過程で生じるメバロン酸は、コエンザイムQ10、ビタミンK、細胞分裂制御因子などの重要な合成材料でもある。事実、血中コレステロール値と疾患リスクはU字型の関係にあり、値が高過ぎても低過ぎても死亡率は高くなる。日本人の血中コレステロール値はU字型の中央値付近であり、これが世界最長寿民族となった理由の一つと考えられる。事実、元気な高齢者の多くは肉や脂肪も充分摂取している。家族性高脂血症などの高リスク患者でない限り、スタチンにより無闇にコレステロール合成を抑制することは避けるべきである。

井上正康先生プロフィール
健康科学研究所所長
阿倍野適塾塾長
京都府立医科大学特任教授
鈴鹿医療科学大学客員教授
IVFなんばクリニック学術顧問
大阪市立大学医学部名誉教授

【経歴】
1945年 広島県(戦後生まれ)
1970年 岡山大学医学部卒業(医師)
1973年 インドペルシャ湾航路船医
1974年 岡山大学大学院修了(医学博士)
1974年 熊本大学医学部助手(生化学)
1980年 米国Albert Einstein医科大学 客員准教授(内科学)
1982年 熊本大学医学部助教授(生化学)
1982年 米国Tufts大学客員教授(分子生理学)
1992年 大阪市立大学医学部教授(分子病態学)
2000年 阿倍野適塾塾長(無国籍生涯学習塾)
2011年 大阪市立大学大学院医学研究科 特任教授(脳科学寄附講座) 名誉教授
2011年 宮城大学 理事&副学長(震災復興担当)
2013年 健康科学研究所所長(産業医学)
2013年 IVFなんばクリニック学術顧問

趣味: 試す・観る・読む・聴く・釣る・潜る・撮る・飛ぶ・活ける・出会う


転載:月刊東洋療法238号
公益社団法人 全日本鍼灸マッサージ師会

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