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医者いらず健康長寿処方箋②

医学博士 井上正康(健康科学研究所)


井上正康先生は、癌や生活習慣病を「活性酸素」やエネルギー代謝の観点と、地球や生命の歴史という大きな視野で研究されている国際的研究者です。
専門書、一般書のご執筆をはじめ、マスメディアでも大活躍、「予防医療」の研究と普及に取り組まれています。

「メタボ狂騒曲」

 人類の歴史の大半は飢餓・怪我・感染症との厳しい戦いであった。文明の進歩により農業を手に入れた人類は、飢餓を克服しながらゆっくりと人口を増加させてきた。この人口増加は産業革命により劇的に加速され、寿命も急速に延長していった。
 19世紀後半に開花したヨーロッパの絵画には生活を享受する豊満な貴婦人達の姿が描かれている。「春はあけぼの、、、」と優雅な生活を詠んだ清少納言や源氏物語の紫式部の時代にも、十二単に包まれた優雅な貴婦人達の蒔絵が残されている。その蒔絵から「ひき目かぎ鼻下脹れ」が万葉美人の基本であることが伺われる。しかし、これらの貴婦人達は現代の健康診断ではメタボ体型としてレッドカードを突きつけられるであろう。
 第2次大戦後に日本人の栄養状態は大きく改善され、男女の寿命も飛躍的に延長して世界最長寿民族となった。しかし、この長寿と引き替えに、最近では各種の生活習慣病を心配するようになってきた。高カロリーの食生活により動脈硬化や心血管障害に悩まされている欧米先進国では、高脂血症や肥満が深刻な問題となっている。この様な風潮に影響され、日本でも「コレステロール恐怖症」や「メタボ恐怖症」が蔓延している。2008年4月より始まった「メタボ健診」では、男性の腹囲85 cm(女性は90 cm)やBMI 25を上限とし、血糖値、中性脂肪、コレステロール、血圧、喫煙習慣などによりクラス分類され、保健指導される様になった。日本人の場合、男女ともBMI 22が標準的数値とされた結果、成人男性の大半がメタボの烙印を押されることになった。肥満を敵視するマスコミやメディア影響を追い風に、「脂肪を燃やす○×」、「◎×でお腹周りが○○cm縮小」など、過剰な脂肪敵視ビジネスのコマーシャルが一日中垂れ流されている。これがお茶の間の市民を直撃し、老いも若きもスリムボディーを目指してメタボ狂騒曲に振り回される現象が日常化した。
 物事には様々な側面がある。実は、このメタボ基準の策定に関わった医師の多くが製薬企業から寄付金を受けていたことから、その公正性が早くから疑問視されていた。医学会からも「この基準はおかしい」との声が挙がり、検診制度が発足して間もなく基準が改定され、「腹囲」は新基準から除外された。検診制度発足直後に診断基準が見直されるのは極めて異常な事である。実は、諸悪の根源と誤解されてきた血中のコレステロールと同様に、「BMIと疾患のリスクもU字型の関係にあり、高過ぎても低過ぎても病気になりやすいこと」が判明している。疾患のリスクが一番低いBMI値は25付近であり、「青春時代+ 10 kgのチョイメタ」が健康長寿の秘訣である。腹囲を気にしすぎてメタボ検診で一喜一憂するのはナンセンスであり、貴重な医療費の無駄でもある。
 巷ではメタボ騒動にも嫌気がさしてきたのか、最近ではポッチャリ型の「マシュマロ女子」が市民権を主張し始めている。しかし、その実態はBMIが軽く30を越える体型美とか、、、。これでは相対危険度もうなぎ登りに高くなる。やはり何事も中庸が大切である。

転載:月刊東洋療法239号
公益社団法人 全日本鍼灸マッサージ師会

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