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医者いらず健康長寿処方箋㉑

健康科学研究所所長・大阪市立大学医学部名誉教授 井上正康
〈現在、多くの府県師会より講演依頼を受けています。ぜひ貴師会でも!〉


井上正康先生は、癌や生活習慣病を「活性酸素」やエネルギー代謝の観点と、地球や生命の歴史という大きな視野で研究されている国際的研究者です。専門書、一般書のご執筆をはじめ、マスメディアでも大活躍、「予防医療」の研究と普及に取り組まれています。

「日本の非婚不妊少子化時代」

 先進国の中でも特に日本は深刻な非婚少子化現象に直面しており、これによる人口減少は超高齢化現象とともに大きな社会問題となっている。これを背景に、多くの地方では近い将来に消滅する運命にある市町村が無数にある。この非婚少子化の背景には若者が置かれている社会的、経済的、文化的な複合要因がある。今や死語になりつつある「結婚適齢期」は、家庭を持って無事に子供を育てる為の生物社会学的条件で決められており、時代の経済状態、性成熟年齢、平均寿命などに影響されてきた。
 哺乳類の性成熟年齢は寿命と相関し、長寿命の種ほど性成熟期間も長い。一方、寿命と産児数は逆比例し、短命な種ほど多産である。ちなみに、寿命が数年のハツカネズミは生後8週で性的に成熟し、3日ごとに排卵してねずみ算的に子供を増やすことができる。これとは対照的に、人類は少なく産んで時間をかけて確実に育てる戦略で繁栄してきた。
 野生動物では次世代を出産する能力と寿命の間にギャップは無く、不産期になると死んでいく。平均寿命が40歳以下だった産業革命以前は、ヒトも野生動物と同様に閉経年齢と寿命との間に大きなギャップは無かった。当時の先進国の女性の性成熟年齢は約17歳であったが、1960年頃には約14歳、2000年頃には約13歳、そして現代では約12歳と年々若年齢化してきた。この性成熟の若齢化は第二次大戦後の栄養状態改善などで幼児期から十分な皮下脂肪の蓄積と女性ホルモンの産生が可能になったことが主因である。
 世界最長寿国の日本では、女性の性成熟年齢が若年齢化した一方で、平均寿命は86.6歳と著しく延長した。女児は出生時に将来卵子になれる卵母細胞を200万個以上持って生まれてくるが、卵巣機能がピークを迎える20歳頃にはその数は約25万個まで減少している。約5分間に1個の割合で細胞が死んでいくのである。生き残った卵子予備軍はその後も速やかに死滅していき、40歳頃には大半が消失してしまう。女性の個体も20歳頃に成長のピークを迎えるが、その老化は紆余曲折を経ながら80歳半ばまでユックリと進行する。ヒトの卵巣は母体の3倍以上の速度で老化していくのである。
 免疫組織や卵巣の細胞が他組織の細胞よりも速く死んでいくにはそれなりの理由がある。免疫系の軍隊である白血球は病原体や老廃物を破壊して排除する為に多量の活性酸素を産生している。この事が免疫系細胞の老化促進因子となっている。実は、哺乳類の排卵も活性酸素でコントロールされているのである。女性の卵巣では活性酸素を産生する酵素の遺伝子が毎月活性化され、強烈な酸化ストレスが誘起される。これにより成熟した卵胞の膜が破壊され、卵子が子宮へと旅立っていく現象が排卵である。この様に卵巣が酸化ストレスのシャワーを浴び続ける事が自身を速やかに老化させる原因となっている。この活性酸素のシャワーを約400回浴びると卵子予備細胞も枯渇して閉経を迎えることになる。興味深い事に、3日に一回排卵して20日間で出産できるマウスも400回程の排卵で卵子予備軍は枯渇するが、母体も同様に老化して死を迎える。野生動物の世界では、子孫を残せなくなった老齢個体は若い世代と食物を競合する為に種の存続にマイナスとなるので自然選択により排除されてきた。野生動物では性死が個体死に直結している。動物で老人がいるのは人間だけである。
 子育てには莫大な労力と時間が必要である。大家族や三世代同居が当たり前だった時代にはオバアさんが子供や孫の面倒を見てくれたので、お母さんも主要な働き手として食物採取や農作業に専念できた。これにより飢えを凌ぐのに十分な食糧が確保でき、人口も増えていった。しかし、仕事の大半が都会に偏在する現代の日本では、マンション暮らしで核家族化した夫婦のみで子育てすることになり、様々な面で余裕のない生活を強いられている。女性の社会進出やキャリアー志向の増加も、妊娠適齢期を逸する非婚少子化の重要な要因となっている。社会では男女共同参画が叫ばれているが、日本では不平等な男女格差やマタハラなどにより非婚少子化や不妊少子化が改善される兆しは見られない。
 鍼灸マッサージは不妊治療にも有効である。その主な作用は視床下部・下垂体・卵巣軸を介するホルモン代謝調節と骨盤内循環動態の改善である。不妊症の女性には冷え性の方が圧倒的に多い。冷たい下肢の血液が外腸骨静脈から骨盤内を介して下大静脈へ戻る際に、卵巣も冷却されて正常な代謝が抑制される。不妊治療には骨盤内血流とホルモン代謝の改善が必須である。不妊治療では子宮、天枢、大巨、石門、関元、三陰交、血海、合谷などのツボが知られているが、これらは骨盤内血流と卵巣代謝を改善する効果がある。不妊治療には女性の鍼灸マッサージ師が大いに貢献できるので、自分達の武器を科学的に進化させ、不妊少子化問題を軽減する若手のプロ集団が育つ事を願っている。

転載:月刊東洋療法258号
公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会

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