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医者いらず健康長寿処方箋(44)

健康科学研究所所長・大阪市立大学医学部名誉教授 井上正康


井上正康先生は、癌や生活習慣病を「活性酸素」やエネルギー代謝の観点と、地球や生命の歴史という大きな視野で研究されている国際的研究者です。現在、多くの府県師会主催の公開講座で講演され大好評を博しています。ぜひ貴師会でも!
 ご連絡は下記URLより。
健康科学研究所HP http://www.inouemasayasu.com/seminar/

「コレステロールの不都合な真実」

 第二次世界大戦で惨敗した日本人は、持ち前の勤勉さと「和を以て尊し」となす精神構造により驚異的な復興を成し遂げて世界を驚かせた。終戦直後の国民病であった結核、寄生虫疾患、脳卒中などが徐々に低下すると同時に乳幼児死亡率も激減し、日本人は世界の最長寿民族となった。“ジャパン アズ ナンバーワン”と言われて団塊世代の猛烈社員が不夜城と化した日本列島を闊歩していた右肩上がりの時代のことである。しかし、人生はトレードオフであり、長寿と引き換えに高齢者には様々な不具合が生じてくる。“ヒトは血管とともに老いる”と言われる如く、高齢者では血管が老化して循環器系の病気で亡くなる率が高くなる。その主な原因が動脈硬化であり、脳卒中や心筋梗塞の原因として恐れられてきた。動脈硬化の病巣にコレステロールが蓄積していることから、これが原因物質と誤解されてコレステロールや脂を敵視する信仰が世界中に広まった。
 実は、体内のコレステロールは食事由来と肝臓で合成されたモノの総和であり、両者のバランスで生体が必要とする量を維持する様に制御されている。したがって、食事で摂取するコレステロールの量を抑えても肝臓での合成量が増えて必要量が保たれる。このため高脂血症患者以外で食事中のコレステロールを強く制限することには意味が無い。
 肝臓で作られたコレステロールはLDLと呼ばれるタンパク質に結合して脳や全身組織へ運ばれ、逆に末梢組織のコレステロールはHDLと呼ばれるタンパク質で肝臓に運ばれて処理されている。輸送列車の登りと下りの様なLDLとHDLが血中を行き交うことにより60兆個の細胞国家の健康が維持されているのである。事実、体内のコレステロールの約半分は脳に局在して神経細胞の膜を保護している。コレステロールのお陰で神経細胞や血管を含む全身の細胞膜が強くなり、脳も巨大化する事ができたのである。終戦後に脳卒中が激減したのも良質なタンパク質や脂肪の摂取量が増加した為である。コレステロールの残り30%は胆汁酸として膵液と共に十二指腸に分泌され、胃液中で殺菌されなかった病原体を処理すると同時に食物中の脂肪の消化吸収に関与している。残りのコレステロールは、コルチゾール、エストロゲン、テストステロンなどのホルモンとして生命維持に不可欠な役割を担っている。
 コレステロールにはこの様に重要な役割があるにもかかわらず、動脈硬化研究の専門家達はLDLを“悪玉コレステロール”と呼び、その名がメディアを介して国民に“コレステロール恐怖症”を植え付けてきた。その結果、“悪玉コレステロールを下げれば健康になれる”との神話が生まれ、コレステロールを低下させる様々な薬や商品が開発されてきた。しかし、体内で重要な役割を担っているコレステロールを“善悪”で考える概念は未熟な20世紀医学の大きな誤解であった。体内のコレステロール合成経路ではミトコンドリアのエネルギー産生に不可欠なコエンザイムQ10、出血や骨粗鬆症を予防するビタミンK、及び癌を抑制する細胞分裂制御因子なども産生されており、食事由来のコレステロールでは補えない重要な機能がある。しかし、未だに動脈硬化や循環器の専門家達はスタチンと呼ばれるコレステロール合成阻害薬を大量に処方して血中レベルを低下させる事に奔走している。スタチンは日本人研究者が米国で開発した医薬であるが、日本では循環器系患者が多い米国よりも遥かに広い適応基準で使用される事になり、欧米の専門家達を驚かせた。その背景には医療経済学的理由が深く関与している。
 実は、日本の人口(約1.3億人)は世界人口の僅か1.8%に過ぎないが、この僅かな人口で世界の全医薬品の40%をも消費しているのである。日本の年間総医療費は約33兆円であるが、その12兆円は薬代である。その中で断トツが降圧剤であり、世界の60%を日本人が飲まされており、年間売上額は1兆円以上になる。これに続くのが抗癌剤であり、コレステロール合成阻害薬も上位に位置しており、スタチンだけで年間約3000億円もの売り上げである。事実、循環器内科を受診した大半の患者が「コレステロールが少し高めなのでお薬を出しておきましょう!」と言われて不必要に処方されている。驚くべき事に、スタチンを投与されて“悪玉コレステロール”が大幅に低下したにもかかわらず、患者総数や死亡率は減少しておらず、心疾患以外の全死亡率は逆にLDLコレステロールが低い方が高いことも明らかになっている。このため家族性高脂血症以外の患者ではコレステロール合成阻害薬は投与すべきでないと考えられる。事実、血中のコレステロール濃度と疾患のリスクはU字型の関係であり、コレステロールが高過ぎても低過ぎても死亡率は高くなる。日本人の血中コレステロールはU字型の中央値付近であり、この理想的な状態が世界最長寿民族になれた理由の一つである。事実、元気な高齢者の多くは肉や脂肪も充分摂取している方々が多い。この様な事実から厚労省もやっと2015年になって「卵の摂取量と冠動脈疾患や脳卒中の死亡率及び糖尿病のリスクは関係が無いので、毎日二個以上食べても大丈夫である。特に高齢者においては低栄養にならないようにコレステロールや動物性たんぱく質を制限しない様に!」との注意喚起を行った。更に、「日本人の食事摂取基準2010で「コレステロールの1日摂取量の上限は600 mgとされていた記載」も削除された。しかし、「不必要なコレステロール合成阻害薬の投与を控えるべきである」との声は未だに聞こえてこない。利権が絡むと、誤って掛け違えられたボタンをかけ直すことは実に難しいものである。

転載:月刊東洋療法281号
公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会

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